「死刑廃止論の例外」についての疑問

とある方のツイートが元で、以前からあった死刑の是非についての議論がちょっと盛り上がった(?)ようです。

 

私自身は、死刑については廃止すべきか、存続すべきかは結論が出せません。「国家が殺人を犯して良いのか?」「冤罪を完全に無くすことはできない」という意見も尤もだと思いますし、その人命を重視する理念は崇高なものだとも感じますが、一方で、尼崎で起きた凶悪事件の首謀者である角田美代子などは、単なる死刑などではなく、なるべく長時間に渡って多大な苦しみを与え続けるような、極力残虐な方法で死刑にすべき!などという気持ちも(個人的感情としては)持ってしまいます。 

ただ、個人的にはこのブログで述べられている死刑廃止論の根拠が、感情的な言葉を排して冷静に客観的に述べられていてとてもわかりやすく、参考になりました。

greg-yamada.hatenablog.com

ただし、最後の節「死刑廃止の例外」については全く納得がいかなかったので、次のようなブコメをしました。

死刑廃止論者はこう考えているということをなるべく明晰に書いてみる - グレッグ山田の文句百万回

これを読んでも死刑の是非について自分の中では答えが出ないが、廃止論について理解を深めることは出来た。ただし、最後の「死刑廃止の例外」節についてはその前の部分の主張と矛盾しており全く説得力がない。

2016/10/06 02:50

b.hatena.ne.jp

これについては次のような回答を頂きました。以下引用です。

ブコメ回答id:aw18831945
すこし、分かりにくかったので補足。
要するに、犯罪者を裁くのは、ある政治的編成をされた集団のメンバー(友)が法を逸脱した場合、隔離矯正するためであると考えるなら、そもそもその政治的編成をされた集団の「敵」(裏切者)に対しては、死刑、より厳密に言うなら戦闘行動としての殺傷を行うことに矛盾はないかと思います。」引用終わり。

うーむ、ご回答を頂いて申し訳ないのですが、やはり全くわかりません。グレッグ山田さんが死刑廃止の根拠とされていたものが、これだけの理由で全て無効になるというのはやはり全く納得できませんでした…。

1,冤罪の可能性

「外患材や内乱罪のような国事犯、反乱や抗命、敵前逃亡や利敵行為」についても、冤罪の可能性は排除できません。特に敵前逃亡や利敵行為は(例えば軍の上官や上層部の不正を暴こうとしているなどの)特定の人物を陥れる為に周囲の人間が口裏を合わせる、という可能性は大いにあるでしょう。

2,「国家(あるいは政府)が殺人を犯すことになる」

いわゆる「反体制派」というものは、その国家体制下にある国民、人民全てに対して危害を加える、又は殺害することを目的に活動している例は殆ど無いでしょう。多くの反体制派の活動の理由は、「現体制は無能である又は間違っているが故に国民、人民を不幸にしている。」なので、左翼系ならば「国民、人民の幸福のため」右翼系なら「自民族が正しい方向に立ち返る為に」反体制活動をしている訳です。その是非は別としても、それが角田美代子のような私利私欲の為の凶悪犯罪よりも、国民、人民に対して重大な犯罪だと言えるのかどうか?角田美代子を死刑にしないのなら、国民、人民や自民族の幸福の為を思った行動(それが客観的に見て間違っていたとしても)を死刑に出来るのでしょうか?(もちろん私は、完全普通選挙の行われている現在の日本で、社会変革の為とはいえテロ活動を行う団体は決して支持しませんが…。)

敵前逃亡についていえば、実際に戦場に立ってみたらあまりに恐ろしくて逃げてしまった、あるいは人を殺したくないという信念に基づいて逃亡した場合、

利敵行為については、敵軍に脅迫、拷問されて恐怖のあまり利敵行為に加担してしまった、という場合、国家の為に国民があるのではなく、国民の為に国家があると言う現代民主主義の価値観に基づいて、それが角田美代子のような国内の一般凶悪犯より重罪だと言えるのでしょうか?

 

要するに、死刑廃止の根拠について、それまで非常に明晰に明快に説明していらしたグレッグ山田さんが、「例外」とされる死刑に対してはその論拠を実にあっさりと翻してしまうところが全く不思議でなりません。

革マル中核派のような過激派集団ならまだしも、極右やネトウヨの人達は合法的活動を行う日本共産党やシールズ、社民党あたりまで「反体制危険分子」などと呼んだりする訳で、時の権力の都合で外患材や内乱罪なんてものは恣意的に擦り付けられる可能性もあります。

 

上に書いたように私は死刑については賛成とも反対とも言い難い立場ですが、もし仮に死刑反対の立場に立つならば、その時点での権力の都合によって幾らでも擦り付けられる「外患材や内乱罪のような国事犯、反乱や抗命、敵前逃亡や利敵行為」について、死刑廃止の例外なのは妥当、という結論は全く受け入れられませんでした…。

 

 3. 戦闘行動としての殺傷である

私のブコメに対する回答として、「そもそもその政治的編成をされた集団の「敵」(裏切者)に対しては、死刑、より厳密に言うなら戦闘行動としての殺傷を行うことに矛盾はないかと思います。」とあります。仮に戦場において戦闘中であれば、敵兵は撃たねばならないでしょう。国事犯=敵兵と考えると、例えばテロリストがテロを実行中なら、当然市民の安全のためには射殺も止む無しです。しかし、既に拘束され収監された敵兵は捕虜です。

捕虜 - Wikipediaの現時点の版(2016年9月29日 (木) 13:00(JST)の版)では次のような記述があります。(以下引用)

「1949年8月12日のジュネーヴ条約4規程及び1977年の第一追加議定書によって、戦時における軍隊の傷病者、捕虜、民間人、外国人の身分、取扱いなどが定められている。第3条約「捕虜の待遇に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約」により、ハーグ陸戦条約の捕虜規定で保護される当事国の正規の軍隊構成員とその一部をなす民兵隊・義勇隊に加え、当該国の「その他の」民兵隊、義勇隊(組織的抵抗運動を含む)の構成員で、一定の条件(a, 指揮者の存在、b, 特殊標章の装着、c, 公然たる武器の携行、d, 戦争の法規の遵守)を満たすものにも捕虜資格を認めた。

1977年の第一追加議定書ではさらに民族解放戦争等のゲリラ戦を考慮し資格の拡大をはかった。旧来の正規兵、不正規兵(条件付捕虜資格者)の区別を排除し、責任ある指揮者の下にある「すべての組織された軍隊、集団および団体」を一律に紛争当事国の軍隊とし、かつこの構成員として敵対行為に参加する者で、その者が敵の権力内に陥ったときは捕虜となることを新たに定めたのである。

なおテロリスト等は国際法上交戦者とはされず、捕虜にはなり得ない。最近では軍隊とテロリスト等が交戦する非対称戦争が注目されている。むやみに捕縛者を犯罪者扱いすれば国内外からの非難を浴びかねないこともあり人道的見地から捕虜に準じた扱いをとるケースが増えている」(引用終わり)

このように不正規兵も捕虜と扱われ、テロリストですら「人道的見地から捕虜に準じた扱いをとるケースが増えている」という近年の状況において、人命は尊いという人道的見地から死刑廃止を唱える方が、国事犯や軍法においては「銃殺が妥当」とするのは、やはり全く納得がいかない…というのが私の感想です。