逆走自転車に対する対処法について

何年か前に警察が自転車の違法行為に対する取り締まり強化を打ち出したが、現在も自転車の車道逆走(右側通行)は一向に減らず、警察が取り締まる気配もない。

個人的に感じるのは、車道と歩道が分かれていない道路では逆走自転車が増えることである。ママチャリやクロスバイクは平然と逆走している。言うまでもないが、「車道と歩道が分かれていない道路」は全体が車道であり、当然このような道路でも自転車は左側通行である。以前は路側帯(歩道のない道路の隅に引いてある白線が引いてある場合の白線より側端側)のなかでは自転車の右側通行(つまり右側の路側帯を走ること)が認められたが、2013年12月1日の法改正によって禁止となった。また、白線が引かれていない道路の即端は「路側帯」ではなく単なる「路肩」であり、これは法改正以前からそもそも自転車の右側通行は認められていない。

ある程度自転車を愛好する人に取っては、逆走自転車は実際迷惑な存在である。

自分が道交法に則って車道の左側を走っていて、前から逆走自転車が来る。後ろからはトラックやバスなど大型車が来る。普段でさえ大型車の幅寄せで怖い思いをすることは多いのに、違法な逆走自転車によってさらに危険な思いをする可能性がある。

とある対処法

逆走自転車に遭遇した場合にはとある対処法が提唱されている。是田智、小林成基共著『自転車はここを走る!』(エイ出版社、2012年)の96〜98頁においてNPO法人自転車活用推進研究会の小林成基氏が提唱している方法で、実践する人もいらっしゃるのではないだろうか。この方法は、最新版である「新・自転車"道交法"BOOK」(2017年)にもそのまま載っている。これは、

1.左端の走行位置を保ち、逆走者に左側は譲らない。

2.逆走者も進路を譲らないなら停車し、逆走者を車道の中央よりにやり過ごす。

3.すれ違ってから逆走者に「自転車は左側通行ですよ」など声をかける。

である。小林氏はこの方法を提唱する理由として、

A.順走者(正しく左側を通行している側)が車道の中央寄りに避ける、という方法では、逆走者は自分の間違いに気付かず、危険な逆走者が減らない。

B.正しく法律を守っている順走者が、法律を破っている逆走者の為に、自分からより危険な車道の中央寄りに出る必要はない。

などを挙げている。

 

では私自身が上記1. 2. 3.のうち、1.と2.を実戦してみて感じた問題点について書いてみたい(さすがに3.を実戦してみる勇気はありません…)。

 

この対処法を一部実践してみて感じた限界と問題点

A.まず、逆走者に間違いを気付かせる効果に付いては、殆ど無いのではないか、という印象である。これは仮に上記3.をも実践したとしてもたいして変わらないのではないだろうか?

逆走者のほとんどは、自分が違法な悪い行為をしているという自覚はない。大半は「自転車は左側通行」ということ自体を知らないか、又はそれを知っていたとしても、そんなものは現実の生活においていちいち守る必要はない単なる建前の一種、と考えている(車が来なければ赤信号を渡る歩行者と同じ心理である)。

このような人を相手に上記の方法を行っても、相手は「変な人に嫌がらせをされた」という印象しか持たない可能性はある。

このように「変な人に嫌がらせをされた」という印象しか相手に与えられないとすれば、逆走者がとてもガラの悪い人物だった場合、無用なトラブルに巻き込まれる可能性もあるかもしれない(幸いまだ私はそのようなことにはなったことはないが…)。あるいは、逆走者が登下校中の児童生徒などだった場合、「変な人に嫌がらせをされた」と保護者や教員に報告されれば、児童生徒に嫌がらせをする不審者が出没している、などという誤解に基づく不名誉な噂を広められる可能性もあるかもしれない(実際登下校中に逆走してくる中高生も多く、上記の方法で対処したことは何度もある)。

B.逆走者に危険な車道の中央寄りを走らせる、ということは、裏返せば「法律を破る悪い奴に危険な側に追いやる」という復讐の精神がないとも言えないのではないか?という疑念がある。これについて小林氏は順走者からは迫る車は見えないが、逆走者からは見えているので問題ないとような書き方をしている(言うまでもなく順走者にとって自動車は背後からやってくるが逆走者には前からやってくる。日本で歩行者が右側通行なのはこの面から安全だと考えられる為だろう。ただし、車両と歩行者の通行側が逆なのは先進国では稀らしい)

ただし逆走者の方が相対速度が大きく(自転車20km/h、自動車40km/hとして、順走者の自動車との相対速度は20km/h、逆走者は60km/hである)、この点から来る別の危険性(接触した時の衝撃の大きさ、自動車の側からの回避の難しさ)もあると考えられる。特に道幅が狭い場合、この危険性は高い。

仮に(あくまでも仮にの話だが)、中央寄りにやり過ごした逆走者が後ろからやってきた自動車と接触して大怪我または死亡した場合、法的には「あなたは道交法を守っただけなので責任はありません」と判定され法的責任を問われたかったとしてもても、道義的に全く責任を感じずに済ませることは出来るのだろうか?

また逆走者放任の現在の警察の様子から考えると、上記1. 2. の行動に理解が得られず危険な行為だと判断されれば、法的責任を一切問われないということはありえるだろうか??

 

ではどうするのか?

客観的に考えた場合、逆走者に対する最も「大人な」対応は、自分から車道の中央寄りに避ける、という多くの人が行っている方法であろう。是田氏は「私はよけて注意しますね」としており、逆走者を右側に(つまり自分から車道の中央寄りに)避けながら「自転車は左側通行!」と注意してるイラストが載せられている。ある意味王道であろう。しかし実際に「自転車は左側通行!」などと言うのは私には無理だ。この右に避けるという方法を逆走者に対する注意なしに無言で行えば、小林氏が言うように逆走者に違法性を啓発する効果は一切無い。ただし、逆走の危険性と違法性の啓発は本来は警察の役目であり、順走者の役目ではないともいえる。しかし警察はそんな啓発に力を入れている様子はなく、逆走者を取り締まる気配もない。ただし、上でも書いたように、上記小林氏の方法に逆走者を減らす効果があるのかどうかも疑問である。

結局の所、自分が今でも上記の小林氏の提唱する方法のうちの1.と2.をなるべく実践しているのは、違法な行為を行う人に、その違法性と危険性に気付いてほしいという思いがあるのと同時に、逆走という危険な違法行為をする輩に個人的にも一矢報いて溜飲を下げたい、という心理があるのも事実だ…。

 

今後、この小林氏の提唱する方法をやめるのか、続けるのか、自分の中でまだ答えは出ない。

(6月11日にかけて部分的に追記、加筆、推敲を行いました)

 

上記の小林氏の方法を行うべきでない場合(2020年8月追記)

ある時、小林氏の方法を行って失敗したことがある。左端に寄って停車したら逆走者にぶつかられたのである。ハンドルを握っていた右手の中指の爪が少し剥がれ出血してしまった。「自転車は左側通行ですよ!」と言ったら「すいません。まぶしくて見えなかったんです」と言われた。

振り向いてみると背後から眩しい西日がギラギラ差している。早朝の朝日でも同じことが起きうる。

もう一つは道路が左カーブの場合だろう。逆走者は突然現れる。さらにこれが坂道だったら下る側の速度がかなりのものになる。この場合も小林氏の提唱する方法はやめた方が良いだろう。

道路が直線や右カーブで陽も高いなら、小林氏の方法も悪くはないだろう。